(第一)電通事件【概略】
企業による「うつ病」の労災認定、また安全配慮義務に関しての歴史的な事件です。
時は 1991年。
大手広告代理店の電通に入社して2年目の男性社員(当時24歳)が、自宅で自殺しをします。
遺族は、男性社員は会社に長時間の労働を強いられたことによりうつ病を罹患し、それによる自殺をしたとして、会社に損害賠償請求を起こします。
男性の残業時間は147時間/月だったとか。
裁判所の判断は、2000年に電通社が遺族に1億6800万円の賠償金を支払うことで終わります。
その根拠として、過労に対する安全配慮義務違反があったというものです。
私見による補足説明
数字上の話ではありますが…
9:00に出社したとして、7時間勤務+1時間の休憩で17:00と見積もった場合(いわゆる、9時5時です)、
一週間に5日勤務で7.35時間の残業をしている計算になります。
ということは、勤怠上は2日働いているのと同じことになりますね…
もう一人雇えばいいのでは…?と思ってしまいます。
残業代の方が高いわけですし。
おそらく、サービス残業にサービス休日出勤もあったので、実際の労働時間はもっとあったことが容易に予想されます。
この辺りがすでに企業の風土や文化が露呈していますね…
法律上のことは門外漢ではありますが、事業者は従業員に安全に働いてもらうことの義務を負うわけです。
それゆえ、健康診断なども事業者の義務になるわけです。(労働安全衛生法)
この事例は、それが精神科的領域においてもその義務を負う、と裁判所が判断をしたことが歴史的な事例となっています。
しかし、時代背景(バブルの時代)はあったでしょうが、それにしても事業者のこの管理意識というのには驚かされます。
直属の管理職が何時間残業していたのかは知りませんが、その働き方をおかしいと思わなかったのでしょうかね…
慣れとは怖いものです。
その後2013年には時短優良企業という、当時の厚生労働省からの優良企業である「お墨付き」を頂いていたはずなのですが…
第2の電通事件
記憶に新しい、2016年の事件です。
電通社員の東大卒24歳女性が過重労働、130時間の残業、休日出勤などによりうつ病を罹患、それにより自殺をした事件です。
wikipediaさんに詳しく経過が載っておりましたので(2016年12月5日現在)、そちらを引用させていただきます。
(以下wikipediaより引用)
2015年4月
入社、インターネット広告部門担当
2015年10月
証券会社の広報業務も担当することになる。6ヶ月間の使用期間を終了し、本採用となったばかりで人手不足と業務の増加に苦しんでいた。あまりにも酷い毎日で死ぬ事を考えるようになり、死んだ後の裁判の証拠にとツイッターに投稿することを決心したが、皮肉にも最終的にはそれが彼女の遺言となってしまった。以下にその投稿内容を記述する。
10月13日「休日返上で作った資料をボロくそに言われた。もう体も心もズタズタだ」
10月14日「眠りたい以外の感情を失った」
11月3日「生きているために働いているのか働くために生きているのか分らなくなってからが人生」
11月5日「土日も出勤しなければならないことがまた決定し本気で死んでしまいたい」
11月10日「毎日次の日が来るのが怖くてねられない」
11月12日「道を歩いている時に死ぬのにてきしてそうな歩道橋を探しがちになっているのに気付いて今こういう形になってます」
12月16日「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」
12月17日「なんなら死んだほうがよっぽど幸福なんじゃないかとさえ思って死ぬ前に送る遺書メールのCC(あて先)にだれを入れるのがベストな布陣か考えてた」
2015年12月25日 クリスマスの早朝
「仕事も人生もとてもつらい、今までありがとう」
と母親へメールが届く。びっくりした母親はすぐに電話して「死んではダメよ」と話したが、彼女は「うんうん」と言うだけであった。その数時間後、居住していた東京都世田谷区の寮の4階の手すりを乗り越え投身自殺を図り即死した。うつ病が原因であり、まだ24歳の若さであった。
2016年10月7日
最長、月130時間の残業などで東京都三田労働基準監督署が労災認定をしていたことが明らかになった。
(以上wikipediaより引用終)
私見による考察(独り言とも)
この事件をどう捉えるのかは、おそらく人によって当然異なるでしょう。
某人は「残業月に130時間程度でだらしない」といった発言をして、大炎上しておりました。
(そりゃ燃えますよね)
視点としては、企業に関する視点と個人に対する視点、さらには文化に対する視点の3つが必要ではないかと思っています。
①企業に関する視点
ホワイト企業を謳(うた)いながら、その内実は…という話ですが。
実際はきっと多くの会社がそうなのではないかと思います。
経済産業省は2015年より「健康経営銘柄」という制度を始めています。
東京証券取引所での銘柄(つまり一部上場企業)に、従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、戦略的に取り組んでいる企業に「お墨付き」をつけるような制度と言えます。
すでにはじまっており、その銘柄となった株価は1500円くらい高くなっているとか。
株式会社は株主のものですが、その株価が上がるということは企業の時価も上がるということですので、経営陣は比較的乗り気のようです。
経営陣は。
しかし、内実はどうなのでしょうか?
ちゃんとやっている会社ももちろんあるのでしょうが・・・
個人的にはちょっと疑問視です。
その意味において、2016年は企業にとって非常に変革を迫られる年だったともいえるかもしれません。
働き方改革元年のような。
(2016年はVR元年とは言われていますが)
メンタルヘルス問題は、同時にワークライフバランス、自身の働き方・キャリアアップなど、多くの問題とニアリーイコールの問題でもあります。
企業戦士(いわゆる、モーレツ社員ですか?)の時代は終わりを告げつつあるのかもしれません。
もっとも、今の会社の上層部はその企業戦士の時代の人でしょうが、そう遠くない将来に違う働き方、違う生産性を考える時代になるのでしょう。
②個人に対する視点
この事件について、やはりメンタルヘルスに関する業界の一員である拙生としましては、色んな方と意見交換をする機会があります。
もちろん「気合いがないからだ」なんて意見は出ません。
ただ、「もし自分だったら」と考えると、私が考える以上にいろいろな意見が飛び出します。
この一連の報道の中で、遺族のお母様が「いのちより大切な仕事はない」とどこかのテレビでおっしゃっていました。
(引用元が曖昧ですみません)
私個人もその通りだと思っています。
会社なんてどこもブラックだから「仕方ない」と思える人。
それでもいよいよとなったら休める人。
したたかに転職活動をして辞められる人。
いろいろな個人がいるわけですが、やはり命を失ってまで働く(というか、働けないのですが)のはおかしなことです。
Noと言えない日本人なんて話もありますが、これ以上は…という時には何らかの形でNoと言わないと、言えるようにならないと自分を守れない時代なのかもしれません。
③文化に対する視点
記事を書くにあたり、インターネットでリサーチはするのですが、その途中にいくつか「なるほど」と思った文化的な視点をご紹介しようと思います。
(1)厚切りジェイソン氏 2016年2月24日のツイッター
「日本はスタート時間に厳しいのにエンド時間にルーズなのは #WHYJAPANESEPEOPLE やわ」
部下の遅刻癖がなおらないということに関し、業務に支障が出ていなければちょっとした遅刻は問題ないだろう? 遅れた分よりも定時過ぎても残っているだろうし。と、前起きしたうえでの発言。
なるほど、と思いました。
確かに、エンド時間にルーズな傾向は強いかもしれません。
私個人は今残業という概念がない仕事のスタイル(もとい、文化)なのですが、エンド時間は自分で決めることになります。
そして、早く終わらせれば終わらせるほど早く家に帰れるので、必然的に仕事を効率的に行っているようにも思いました。
小学校の時、「できた人から帰っていいよ~」と先生が言った時、非常にやる気が漲った記憶が個人的にありますが、日本の会社文化においては真逆ですね。
(2)有給休暇取得義務化
これはフランスとの比較において書かれていましたが、フランスは有給が6週あるらしいです。
そして、バカンスで4週間。
その他イベントなどで2週間。
バカンスのために仕事をする、という文化のようですね。
日本は確かに何日会社にいるか、という視点で仕事をしているのかもしれません。
結論
だらだらと長くなってきてしまいましたが・・・
日本の働き方とメンタルヘルスには非常に大きな関係があります。
おおむね大卒が多い現在、統計的には23歳~65歳くらいまでの42年は働いている期間と言えます。
その中でどのような形で働くのか、どのような企業(風土)に属するのか、今自分たちで考える時代になりつつあるのかもしれません。
そこから企業風土も変わっていくのかもしれません。
最後に、この記事を書いているのは、2016年12月20日~25日位です。
第二の事件となってしまった故人にご冥福と、ご縁のあった方にはお悔やみを申し上げます。
当オフィスでは、多くの会社員の方もカウンセリングにいらしております。
メンタル不調、部下・上司との対人関係など、話すことによって気づいたり、あるいはまったく関係ない立場からの意見によって新しい視点から仕事やライフスタイルを考えることもできると思います。
電通事件も、誰かに話していたら変わっていた可能性もあります。
一定までは「自分でなんとか」という文化の日本であったとしても、明らかにおかしいと思ったら是非専門家へ相談してください。
当オフィスももちろん親身になってご相談を承ります。